ふと思い出した、ある夏の夜の怖い話

数年前まで僕はバイトヤリマンでした。

やらせてもらえるバイトならなんでもやりました。

塾講師、ピザハットを軸に、

ライブ設営スタッフ、ガラ袋に入った瓦礫を地下鉄から地上に運ぶだけの作業、正月セールのリズリサ販売手伝い、交通量調査、お中元のハム流し、山パン、引っ越し(日通、ハート)、複合機交換運ちゃんの相乗り、解体屋手伝い、地元の自販機中身替え、稲毛海浜公園プール売店員、ケンタ、パスタ屋キッチン、セブンのアイスコーヒーダンボールをトラックに隙間なく積むだけの作業員、ヤマダ電機の下請けで大型家電取り付け員、エアコン取り替えマンなど。

高校1年から大学5年まで全部入れてです。

 

それぞれに何かしらの思い出があるから今後色々書きたいなと思ってるけど、さっきふと、エアコン取り替えマンしてた時に体験した本当に怖い話を思い出したので、忘れないうちに書きます。

忘れないけど。

 

エアコン取り付けマンの仕事内容は、家庭用のパッケージエアコンを新品に取り替える作業で、それで飯食ってるおじさんが運転する車に、当時の僕のような可愛かったり使えなかったりする学生バイトが乗り、ツーマンセルで一日7,8件の家を回るというものです。

人の家にあがりこむとその家のいろんなルールとか暮らしが見えるし、暑い中ありがとうと優しくしてくれる人も少なくなかったので、僕の中でかなり楽しい部類のバイトで、1日だけのつもりが結構な回数通いました。

運転員の平均的な怖さが高すぎるなどの理由で競争率は極端に低く、下手したら前日夜に電話しても入れるレベルでした。

 

怖い思いをしたのは木更津にある古い一軒家のエアコンを取り付けた時。

作業開始時は薄明るくて、終了時には真っ暗だったので、たぶん夕方の6時半とかそれくらいの時間だったと思います。

 

ペアの作業員は、結構インパクトの強い人で、弱いアルバイトには徹底的に強く、社内の強い人間には下痢便のようにペトペト下から擦り寄る、学生ながらにしょうもないおっさんだなと思うような人でした。

 

上り込んだ家にはおじさんが一人。

40代前半くらいの見た目で、まぁホームレスと見紛うような不潔な雰囲気で。髪はボッサボサ、ヒゲボーボー、なんか瞳孔開き気味な印象。エネルギーが全く感じられず、この人ただかろうじて動いてるだけで結構前に死んでるんじゃないかと思ったほど。

家もズタボロもいいところ、床が抜けてる箇所は2,3じゃおさまらないし、風呂もこれ最後に水張ったの何年前?ってくらい錆びれてたことを覚えてます。

エアコンを取り付ける対象のリビングも、ゴミやゴミ袋が結構な密度で敷き詰められ、こんなところで作業するのかとげんなりしました。

 

ペアのしょうもないおっさんは、この家に限り、室内に僕一人、室外にしょうもないおっさんという配置にしました。

通常ありえません。室内はお客様と直接やり取りするので、そこを派遣の学生に任せるのは。

ただ僕も逆らえません。押し付ける理由もよくわかるので、その場での立場が弱い僕が甘んじて引き受けるしかなく。

 

おじさんは喋りません。

黙って見てるだけ。テレビもつけず、わけのわからないランプ一つついた薄暗い部屋で、死体みたいなおじさんに見守られ。

息がつまる時間でした。

途中外の作業待ちで、何もすることなく家の中でじっとしてなきゃいけない時間がありました。

そんな時なんとなく、おじさんの目を気にしつつ、家の中のいろんなところを眺めてました。

テレビ厚いなぁとか、あそこの床も抜けてるんだとか。

 

そんなとき、背筋がガチガチに凍るようなものを二つ目にしました。

ここからが怖い話の中身です。

 

一つは、押入れからなだれるようにはみ出た大量の子供靴です。

どう見ても家族が暮らしてる家じゃありません。おじさん一人。

察するに、元々は家族がいて、離婚か死別かで子供も妻も消え、残った一軒家に一人暮らしてるんだろうなと。

それにしても、その方の数は本当に以上で、靴屋さんと錯覚するほどでした(してない)。

 

そしてもう一つ、これが見つけて暫く考えた瞬間、すぐに逃げ出したくなるくらい怖いものだったんです。

なんでしょうか。

 

その通り。

賞状です。

 

リビングの天井近くの壁際四隅(なんて言えばいいかわからない)、音楽室で言えば偉人の写真がずらっと並んでるような位置に、いくつかの賞状が飾られてました。

その段階では特に恐怖もありません。

靴のくだりもあったので、子供がとったものを今も捨てられないのかな、くらいにしか思いませんでした。

 

ただその賞状の内容がおしっこビタビタ案件で。

5,6あったうちの1つがあまりにインパクト強すぎて、本当におしっこ漏らしました。

その内容は、

2重跳び50回跳べたで賞

昭和4◯年×月△日

でした。

 

逆算すると、たぶんそのおじさんの賞状なんですよね。

日時的に子供な訳もなく。

なんか不気味なのわかりますか?

車でしかアクセスできない田舎のズタボロ一軒家に一人暮らすおじさん、その家にそんな賞状で、本人は死人みたいな様子で。

 

なんとなくその二つを見つけたとき、あぁこの人は本当に今もう生きてないのと同じなのかなって思いました。

同時に、だったら新しいエアコンになんかするんじゃねえよボケとも思いました。

何が霧ヶ峰だよ。

 

ちょうど会社に着いたので終わります。二日連続遅刻だ。

霧ヶ峰の話でした。