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サラリーマンの雑記

今を積み重ねていきましょう 球形の季節/恩田陸

球形の季節、恩田陸の二作目です。処女作の六番目の小夜子と同様に、学園ミステリー。ワクワクするような風呂敷の広げ方をして、最後にきっちり風呂敷をたたまない(あえて?)という作品が多い中、この作品も例には漏れずふわっと終わりますが、個人的には読了感がいい思います。

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あらすじ

閉鎖的な町が舞台で、4つの近接する高校の生徒たちが主な登場人物。生徒たちの間で広まる不穏な噂。ヒソヒソと噂を共有するほのかな浮かれ気分は、1つ目の噂が真実となり、ある日にある名字の生徒が行方不明になることで一転します。そして次なる噂が広がり、少年少女は~~~~というお話。

 

こいつぁ「変化」のお話だあ

ここからは読んだ人しかわからないと思うけど。

この話は変化についてのお話だと思います。作中では跳ぶ、進む、とか表現されてる。

例の空間は、今を捨てた変化を望む人たちの空間です。

そこに登場する少年少女は、過去の凄惨な出来事により心に深い傷を負っています。双子の少年達は母親からの虐待を受け、ある少女は幼い頃に家族を殺され、またある少女はその特異な体質から「突然自分が燃えてなくなる」という恐怖に潰され、それぞれ抱えきれない現実から逃げるように、例の空間へ行くことが出来るようになります。彼らはある意味、選択肢がありません。虐待されて、家族を殺されて、いつ死ぬかわからない状況で、そんな今を選ぶのは無理です。逃げられるなら逃げるしかない。しかし藤田晋は特別です。退屈な日常に見切りをつけ、自分から選んで今を捨てた変化を望みます。作中どこかで、他の人間が川の方から現れるのに対して、藤田だけは山から現れたというのはそのことを表現してるんだと思います。そして例の空間には選ばれた人間しか滞在出来ないが、誰もがちらりと現れるときがあると。これは、すまし顔で歩いてるあの子もその子も、今を捨てた変化をちらりと望むことがあるということで、しかし結局は捨てられない何か(例えば家族とか、torrentで落としている最中の宇都宮しをん作品モザイク破壊verとか)があることで、例の空間からはすぐに消えてしまいます(ただこれだとみのりがなんで例の空間に飛んで他の人とは違う挙動まで見せたのかはよくわかんないけど、熱中症?、糖質制限ダイエットのしわ寄せ?)。

物語のラスト、最後の噂、「みんなを迎えに来る」。

日時と場所が指定されたその噂を聞いて、その場所へ向かうもの、向かわないもの、葛藤するもの。不安定な思春期の少年少女なので、「特別な存在になりたい」という思いひとつでその場所へ向かう子もいます。主人公?のみのりは家から出ません。彼女は何か突出したものを持つ特別な存在ではないが、なんでも無い毎日に100点をつけて享受することが出来、誰しも(特に思春期の子ら)が持つ現状への悪あがきのようなものを一切しない女の子として書かれています。そんな彼女が変化を(それも今を捨てるような)を望むわけもなく、その場所へ向かった幼馴染を止めずに見送り、みんな変わってしまうのか、いなくなってしまうのかと憂えています。

ラストのラスト、彼女の母が「石積み」を行う理由を彼女に話します。それを聞き、彼女は「石積み」はいなくなった人を呼び戻すための行為ではなく、そばにいる人(そしてやがていなくなる人)を想う行為であると悟ります。逆らえない時間の流れ、その中で起きる様々な変化を、受け入れて積み重ねていく。

母の真意を聞いた彼女は、石積みをしようと心に決めます。変化を求めて噂の地に行ってしまった彼や彼女を想い。「いつかみんなで、一緒に後ろを振り返って笑えるように」。

 

振り返る道は、今を積み重ねた人の後ろにしかない、ってことでちゅわな。

 

 

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